逃れられない葛藤
教師である夫の担当教科は理科です。
なので、
実験などのために必要な教材を準備することは欠かせない仕事のひとつでした。
お買い物ミッションに挑むのは楽しみな反面、いつも何だか気持ちが晴れない夫婦のやりとりがありました。
今回は、
夫の仕事『教材準備』の際の夫婦の姿を通して、モラハラ夫の実態をおはなしいたします。
買い出しはいつもふたりで
「明日、〇〇買いに行くから」
帰宅するなり、無愛想に言う夫。
「実験で使うやつ?」
「・・・そう(怒)」
何だか分かりませんが、今夜も怒ってる夫。
帰宅後はいつもものすごく不機嫌。
何でもない質問に対しても攻撃的な態度や冷たい返事。
聞こえていているはずなのに無視はしょっちゅうです。
さて、実験道具の準備ですが
夫が買い出しに行くときは必ず私も一緒です。
夫はひとりで外出することは殆どありません。
理由のひとつは
私が一緒でないと、外出中に大好きなゲームができないから。
※夫は私のケータイにゲームアプリをダウンロードしていた。
このことに気づいてからは悲しくて虚しくて泣きたいことも多々ありましたが、それでも私を連れ出し、時間をともにしてくれることに感謝しなくては、と何度も心を入れ替えていました。
もうひとつの理由は
私が一緒でないと、教材の買い出しができないから。
教材を売ってるお店
お店までのナビ
これらはいつも私が必死に調べ、夫にあれこれ提案。
お店までは、夫が困らないように私が道案内するのです。
なぜ他の理科の先生に「この実験の教材はどうしてましたか?」と聞かないのか。
毎年、必ず理科の先生の誰かが同じ単元を教えるのだから、聞くのが早いのでは?と思ってました。
その他の業務や日常生活でも、何かを人に聞くことを敬遠することが多かった夫。
よく、何につけ「◯◯したら負け」と豪語していた謎のプライドのせいなのか、気の小ささによるものなのかはわかりませんが、そのために私が振り回されていました。
※かつて「聞いてみたら?」とつい言ってしまったことが何度かありますが、そのたびにものすごく恐ろしい目に遭ったため、私の中ではNGワードとなりました。
また、最初から私も一緒に行くことが想定内であるのなら「ムギコも一緒に行こう」と、自然に気持ちよく言ってくれればいいのですが、夫は頑なに言いません。
これもモラハラ夫の謎のプライドか
歪んだ勝ち負けにこだわる故なのか、、、
さまざまな遠回しなやりとりをした後、
空気を読んで私の方から「私も一緒に行っていいの?」と夫のプライドを傷つけないようお伺いする形に落ち着きます。
「ああ、いいよ」
夫は相変わらず素っ気なく、上から許可するのでした。
私が夫にお願いしてついて行くことになった、という構図が大事なのかもしれません。
「やったー。おでかけだね!」
私ははしゃいでしまいます。
自分でも〝おかしいな〟と思うのですが、この周りくどいやりとりや夫の冷たい態度に遭いながらも、夫と一緒におでかけできると思うと素直にうれしかったのです。
〝明日こそは!嫌な思いをしないように、イチオを怒らせないように楽しくて良い時間を過ごすんだ!〟
そう毎回心に誓うのでした。
「どう?ある?」
「そこ、ほんとにありそう?」
「場所どこ?近い?」
夫は自分で調べないので
横でいろいろ言われながら、私がお店を検索。
夫をちゃんとナビできるようにお店の場所をなんとなく頭に入れ、もしそこになかった場合に他のお店を回ることも考慮し、効率よくはしごするルートも考えてから眠りにつきました。
ナビにケアに疲労困憊
電車に乗るなりゲームを始める夫。
※いつも夫の顔色を窺ってしまい「これ?だよね?」と自らケータイを差し出してしまいました。
夫はゲームに夢中で黙るので
私も黙って、頭の中でお店へのルートをおさらい。
いつものことですが、
虚しさや緊張で胸が苦しい。
以前、大きな繁華街から大きな繁華街へと大移動しながら100円ショップをいくつも回ったことがありました。
複数の種類の材料を1クラス分くらいずつ集めなければなりませんでした。
私の方が少し土地勘があるとはいえ、
そんなにたくさんの100円ショップは知りません。
数軒回ってもなかなかすべてが揃わず、イライラし始める夫。
そんな状態なのに、とあるお店へのナビで道を間違えてしまうミスを犯す私。
夫に何度も謝罪の言葉を述べました。
その後も追われるように次の100円ショップを検索しながら、夫の心のケアもしなければならず、私も心が荒みがちに・・・
〝だいぶ前から特別な実験の日のスケジュールが出てたのに、なんでこんな切羽詰まってから動き出すんだ!〟
それでも、夫の怖い表情を前にそんな言葉を突きつけることもできません。
腐っていては終わりは来ないので、
とにかく夫の心がこれ以上ひどくならないように、明るく明るく努めました。
だいじょうぶかな
疲れてるかな
いつも、夫の横顔や背中から伝わるものに神経を使いました。
夫の心身を異常に気遣う
無理に道化をまとう
すべてはこの緊張した空気を振り払い
夫と普通に穏やかに過ごすため。
2人が同じ目的で一緒にいるのに
夫は私のことを気にも留めず、イライラ全開でずんずん歩いて行ってしまいます。
〝私はいったい何なのだろう〟
こういう時、いつもその場で泣いてしまいたい気もちに駆られました。
最終的に教材が全部揃ったとき、
私たちは最初にまったく想定していなかった街にいました。
教材が揃い、私は心からホッとしましたが、夫とはそれを分かち合うような空気にはなりませんでした。
夫の表情は晴れることなく、
不機嫌を湛えた顔のまま「疲れた」をくり返すばかり。
大好きなファーストフード店に入り、黙ってシェイクを飲む夫。
そしてまた、
ひとしきりゲームにいそしむ夫。
自分だけのタイミングで店を出ると言う夫。
私はそんな夫に従順について行くことしかできませんでした。
〝今日も何だか・・・いい時間をつくれなかったな〟
2人なのに、なんでこんなに寂しいんだろう。
なんでこんなに苦しいんだろう。
布団の中で自分の一日の行いを振り返り、答えの出ない自問自答と自分の心を失くすだけの反省をくり返すのでした。
夫とのおでかけの苦悩についてはこちらも
ひとりでも買い出し
ひとりで買い出しに行くのは私です。
「ムギコ、今日何してる?」
私は専業主婦なので「家事」としか言えません。
「これ買ってきてほしいんだけど。無理ならいいよ」
まったく無理じゃないし、頼まれることも嫌じゃない。
むしろ、役に立てるならとてもうれしい。
だけど、何でそんなに不機嫌な顔で攻撃的な口調で言うのか。
「これどこに売ってるの?」
「わかんない」
夫の買い出しのお願いはいつも急であり、どこに売っているのかよく分からなかったりするので、困ることもあります。
特に〝水草〟ミッションは大変でした。
水草の名前だけ知らされ、
他の情報は何もありませんでした。
必死にお店を検索し、一日中いろんな電車で行ったり来たり。
でも、どこにも水草が売ってない!!
〝これ、なかったらどうするんだろう。実験できないと困るよなぁ〟
〝あの溜息とか目つきとかされたら嫌だなぁ〟
困り果てて夫にメールで現状を報告しましたが、
その返事を見て、やはりこのまま帰れないなぁと思いました。
最後の最後。
ネットの検索には引っ掛からなかったけど、私の勘で一つだけ思い浮かんだ場所。
【市ヶ谷の釣り堀】
メディアにもたまに登場する有名なところです。
ダメもとで行ってみたら・・・
あった!水草ーーー!!!!!
もう、本当に大変でした。
でも、帰宅した夫は
「ふーん。あったんだ」
くらいの薄い反応。
同じテンションは要求しませんが、やはり何だか虚しさは拭えませんでした。
教材費は教師の負担?
私は少し気になっていることがありました。
授業で使う教材は、
教師が自費負担するのが暗黙の了解なのでしょうか。
結婚前に夫が「他の先生もそうだ」と言っていたことがあり、そのときは〝そうなのか。大変だなぁ〟と思うくらいでしたが、結婚後、自分たちの家計のことを考えるとなかなか大きな出費だと気づき、夫に改めて聞きました。
夫は、しばらく無言で非難するような視線をこちらに向けました。
私は学校・教師のルールに対し、ものすごく非常識なことを聞いてしまったのかもしれません。
しかし、もしそうだとしても
人を蔑むような冷酷な夫の様子に、ものすごくショックを受けました。
日頃、お金に執着していたのは夫の方です。
損得に敏感で細かい。
ちょっとでも自分が損すると思われるような場面ではねちねちと文句を言い、家の生活必需品でさえも自分の欲望に適わない出費には嫌悪感を露わにして渋りました。
そのような人が、教材の出費に文句を言わないことが疑問でした。
自分の体裁をよくするために後先考えずにいいかげんな〝YES〟を発したり、高い評価を保つためならお金も時間も惜しまない傾向にあったので、それで教材費を請求していなかった、というなら納得がいきます。
もしかしたら教材費の請求は周りから疎まれるような風潮があったのかもしれないので、一方的に決めつけることはできませんが・・・
そういうこともいろいろ気軽に話してくれれば、お互いに嫌な気もちにならなくていいのに、といつも思っていました。
実際、教材費を請求していたのかどうかは最後まで分かりませんでした。
ただでさえ、夫にお金の話をすると私の心身がダメージを受けることになるため、恐怖や緊張で躊躇して聞けなくなりました。
妻は所有物?
〝教材集め〟のミッションは
本来、私にとってはとても楽しいイベントでした。
教育の専門的なことは分からないけれど
夫の仕事に少しだけ触れられるような気がして、また、夫と同じことを共有できるということに特別さを感じていました。
しかし時を経るほど、楽しみの中にちがう心が加わりました。
日々夫と心を通わせることができず妻としての自信を無くしてばかりいた私は、もっともっと夫の支えとなり、役に立たなくてはダメだ、という強迫観念に襲われていました。
夫はそんな妻の心には興味がありません。
妻を心があるものとして扱っていませんでした。
おそらく夫にとっての私は
自力で歩くことができる便利な道具
教材準備という日常のさりげない出来事のなかにも、そのような夫の冷たさが伝わってくることがとてもつらかったです。
それでも夫の仕事にプラスになっているのなら、良しとしなきゃいけないのかな、と考えることも何度もありましたが、それをすべて受け入れ、飲み込むまでの心の強さ・広さ・深さを備えることができなかった私は、いつまでもその葛藤から抜け出せませんでした。
その他の夫のお手伝いのおはなしはこちらです。