モラハラ夫が〝親にとって〟良い息子でいるために使う二面性と外面
夫はどこへ行っても〝とても良い人〟と認識されていました。
朗らかで
面倒見がよく
正義感が強い
腰が低くて
礼儀正しく
勤勉な働き者
しかし、これは自己保身や歪んだ自己愛を満たすために激しい二面性と異常なほどの良い外面を駆使して作られた顔。
良い人の顔が向けられるのは
私以外の外側の人たち。
つまり、
職場の同僚や
知り合いに対してはもちろん
血の繋がった身内も〝外側の人〟
夫は自分の両親や親戚の前でも
この〝分厚い外面〟で完全に本来の自分を覆っていました。
真面目な良い子
従順で大人しい息子
自分を殺し
自分以外の人格で居続ける。
そうしていないと自分を保てないのです。
前回は結婚式の準備の際に夫が見せた
〝ものすごい愛妻家夫〟と〝冷酷なモラハラ夫〟の激しい二面性と外面についておはなししました。
今回は、夫のもうひとつの二面性と外面
〝良い息子〟と〝冷酷なモラハラ夫〟
ふたつの立場の間で露骨に態度を変えるモラハラ夫についてはおはなしいたします。
何事も一筋縄にいかないモラハラ夫
最初、夫は結婚式を挙げることを渋っていました。
夫は私からの新しい提案や発展的な意見、また夫にとって未知となる物事に対して気持ちよく応じてくれることは殆どありません。
内容に賛同していたとしても
〝素直に認めたら負けだ〟
〝俺を丸め込もうとしている〟
このような思考が働くことによって
ありもしない〝支配〟を敵視し、抵抗していたのではないかと思います。
モラハラ夫と何か物事を進めようとすると必ずと言っていいほど躓いては揉める。
訳の分からない強引な理屈
威圧的な言葉や態度
夫がもたらす恐怖に萎縮と奮起を繰り返し
大したことのない議論なのに
いつも心身を消耗させ、無駄に傷みを重ねていました。
夫はそれらのすべてを〝お前がくだらないことを言うから〟〝お前が俺を不愉快にさせるから〟と一方的に私のせいにしていました。
この時も、私が結婚式についての話題を出すと鋭い目つきで一瞥し、低い声で「やるの?」と一言。
そのまま無言の闇に沈み
夫は私に読ませる不穏な空気を纏った背中を向けました。
その後、夫の中でどんな思考が巡ったのかは分かりませんが急に態度を変え、何事もなかったかのように結婚式に前向きになっていました。
それからふたりで式場探しや下見。
なんとかお互いに気に入った式場に出会うことができました。
※もちろん途中で夫が機嫌を損ねないような配慮は欠かせませんでした…
父親に何も言えない息子
式の日取りを決める段階まできた私たち。
夫の勤める学校の予定や
ゲストの皆様に迷惑にならないタイミングを考慮しなければなりません。
残り少ない候補の中から希望する日にちをピックアップし、ひとまず持ち帰って検討することに。
その後寄り道したショッピングモール。
お店が並び人が行き交う場所の一角で夫は何の予告もなく立ち止まり、神妙な面持ちで義父に電話をかけはじめました。
きっと、候補の日にちを伝えて
義父に選んでもらおうとしているのだろう
夫の表情は暗く
背中を丸め、声は今にも消え入りそう。
その姿はなんだか悪いことをして謝罪しているように見えました。
どちらかと言えば明るい話題なのにな…
電話を切っても夫は何も言おうとしないので私から声をかけました。
「どうだった?」
無言。
「ダメだって?」
「お義父さん何て?」
やはり無言のまま。
父親との会話の内容が不満だったのか、私の質問が気に食わなかったのかは分かりませんが、夫の目つきと口の形で何か負の感情をため込んでいることだけは確かな様子。
おそらくどの日にちにも義父の了承を得られなかったのだと察し、「どうしてダメって言われたの?」と理由を聞いてみると、それには素っ気なく「わからない」とだけ返ってきました。
※夫とのやり取りは常日頃からこのような不具合が多く、こちらから〝怒らせないように察する〟という作業を強いられました。
なぜどの日にちもダメなのか?
義父は本当に理由もなく反対したのか?
もしそうなら
なぜ夫は義父に明確な理由を聞けないのか?
いろんな〝なぜ〟が駆け巡っていましたが
夫の放つ異様な威圧感に怯んだ私は黙るしかありませんでした。
義父と夫の間で交わされた会話はブラックボックス。
箱の中は永遠に分かりませんでしたが
父親と息子の間には
〝息子の自由な思考や言動は許されない〟
このような理解し難いルールがあることを強く感じていました。
それから数日後、
なんとか無事に日取りが決まりました。
何が許されて了承されたのか、その経緯はやはりわからないままです。
何かの会話の流れでこの話題に触れたとき、夫は異常なほどの拒絶反応を示しました。
誰かを責めているわけではないのに急に恐ろしい剣幕で怒り出したのです。
きっと夫も父親に対して何かしら疑問を抱くことはあったのではないかと思いますが、私の前では何があっても〝義父は絶対〟〝義父は正しい〟という姿勢を崩しませんでした。
露骨に使い分けるモラハラ夫のふたつの顔
結婚式で義父が着用するモーニングをレンタルしなければならず、その試着のため義両親に東京近郊までお越しいただきました。
新幹線の改札で合流し、ドレスショップへ。
挨拶して言葉を交わしたのはほんの一瞬。
それからは
義父はほぼ無言。
義母はしかめっ面で終始ため息混じり。
「これからどこへ連れて行かれるのやら」
「あーもう全然わかんない」
「帰りもちゃんと送ってくれるんでしょっ」
義母のうんざりとした表情といら立ちがこもった言葉。
私たちの結婚式のために義両親に長旅での疲労を強いてしまっているので本当に申し訳ない気もちとどうすることもできない不甲斐なさでいっぱいいっぱいでした。
私はその都度謝罪し、何度も心の中の緊張を掃いては明るく努めようとしていましたがなんとなく空回り。夫はというと、義母の言葉に顔色ひとつ変えることなくただ静かに頷いていました。
乗り換えた電車の中
ドレスショップまでの道
義両親と夫は私に背を向けていて目も合わせられません。
たまに交わされる親子の会話。
そこからかすかに漏れ聞こえる言葉を拾うのに必死でした。
誰にも求められていない笑みをたたえ
誰にも響かない相槌を打ち
誰にも届かない合いの手を入れる
恥ずかしいし虚しいし悲しい、、、けどやめることもできませんでした。
試着を終えるとみんなでお茶だけご一緒することになり、私はテーブルのおかげでやっとみんなと向かい合うことができました。
入籍してから初めてお会いする機会だったので、お互いの近況や結婚式についてなど話題はいくらでもあるように思いましたがそれらに触れられることはありませんでした。
夫の仕事や生活の近況なら会話が弾むかもしれないと思い夫に話のきっかけを振ってみても置物のように椅子に収まったまま。
目の端で私の視線を捉えているはずですが、不自然な横顔が向けられていました。
空席とみなされた場所からのアプローチは
風の気配みたいにほんの一瞬みんなの意識を向けるだけ。
行き場を無くした自分の声や笑顔の残骸に埋もれて息が詰まりそうでした。
私に対してはもちろん、
義両親はなぜか息子にも興味がなさそう。
結局、夫も誰だかはっきり認識してないような地元の人の近況がぽつぽつと交わされたりしているうちにお茶会は終了してしまいました。
新幹線の改札で義両親を見送った途端、夫はそれまで着込んでいた〝良い子〟の着ぐるみを剥ぎ棄てたように一瞬で素に戻りました。
歩き方も話し方も
表情も言葉も
何もかもがさっきとは別人です。
親の前では絶対に見せることのない〝モラハラ夫の姿〟
夫は親の前では絶対に触れることのない私の手を繋ぎ、不機嫌そうに「腹減った」「疲れた」と思いのままを口にしながら人混みの中をマイペースに突き進み、
私はいつものように、夫に睨まれないよう必死に人を避けながら夫の隣りをキープし、「お疲れさまでした」「ごめんね」と意味不明な謝罪で夫の不機嫌をなだめるのでした。
〝親にとって〟の良い息子を貫くモラハラ夫
日頃、夫は外では〝ものすごい愛妻家〟でいることが通常でした。
でも、義両親の前では逆。
夫はふたりでいるとき以上に私に素っ気なく、冷たく突き放しました。
なぜかと言うと、
夫は〝両親にとっての良い息子〟でいなければならないからです。
義両親にとっての良い息子とは
実家に戻り家を継ぐ
実家家族に従順である
親の役に立つ
など
例えば、人に優しいとか、社会で自立して頑張っているとか、人として正しく生きているかはどうでもよく、とにかく息子の心・思考・行動のすべてが〝実家・家族〟に向けられ、そのために尽力しているかどうかで〝良い息子〟と評価されているように私には見えました。
親や実家以上に優先されているものがあってはならない
妻よりも両親
自分の築く家庭よりも実家
夫が〝良い息子〟だと認めてもらうため、自分の身を守るためには両親の前では〝愛妻家〟ではなく〝妻に冷たくする〟というのが正解で、そうすることによって自分にとって最も大事なのは親と家なのだというメッセージを送り続けていたのではないかと思います。
結婚式の準備の過程では他にも夫の〝良い息子〟と〝モラハラ夫〟の両極端な二面性や〝親にとって良い息子〟という特異な外面を目の当たりにしたり、〝良い息子〟を保とうとする強い執念を感じることがありました。
夫が親に認められたい、親孝行がしたいという思いを果たそうとする度にとなりにいる私にモラハラが及んで理不尽に傷ついたり、私が妻だからダメなんじゃないかという罪悪感に苛まれたりしていたため、夫に純粋な気もちや疑問を伝えたこともありました。
しかし、その度に夫は
「あなたの感じ方がおかしい」
「俺に失礼だ、謝れ」
「あなたの考えが変われないなら無理だよ」
すごい剣幕で否定や非難を突きつけたり、無視するなどで私に向き合おうとしませんでした。
結婚を許されるまで大きな試練を乗り越え、そこから希望をもって夫の家族になろうと心を決め、少しでも早く嫁として受け入れていただけるようにと前向きに歩を進めていました。
しかし、「必ず俺がムギコと両親との橋渡しになるから」と力強く宣言してくれていたモラハラ夫の〝二面性〟と〝外面〟はそんな私の心をあっさりと裏切り、その後、私と義両親の心を繋ぐことはありませんでした。